「睡眠」、人間にとって当たり前のこの行為ですが、「睡眠とはどのようなものだろうか?」と考えたことはありますか?
人間は睡眠をとらないと生きていけませんが、睡眠のメカニズムについては100%解明されたわけではないようです。
今回は認定心理士が睡眠のメカニズムについて可能な限りかみ砕いてお話しします。睡眠を十分にとることがメンタルを安定させ健康に生きるために不可欠なものになります。
睡眠を知ることは健康な生活と豊かな日常生活を送るための重要な要素です。
心理学の認定資格「認定心理士」とは?なぜ認定心理士が睡眠を語れるの?
筆者は「認定心理士」です。「認定心理士」とは、日本心理学会が認定する心理学に関する資格の一つであり、心理学の基礎的な知識と技術を有することを証明するものです。認定心理士資格は、臨床心理士や公認心理師などと比較し、主に心理学の教育と研究に焦点を当てています。
認定心理士資格を取得するためには、大学で心理学の基礎的な科目を履修し、所定の単位を取得することが必要です。具体的には、心理学の基礎科目(例えば、心理学概論、発達心理学、社会心理学、実験心理学など)と、実験実習(心理学の実験を10個以上実施しレポート作成)などの実践的な科目を含む一定のカリキュラムを修了することが求められます。
これらの要件を満たした上で、大学を卒業した後に日本心理学会に申請し、審査に合格することで認定心理士としての資格が授与されます。
認定心理士取得に必要な心理学の基礎科目には、睡眠が人間の心理と行動に与える影響を学ぶ内容が含まれています。これは、認知機能、ストレス管理、学習や記憶の形成などに関連します。
さらに、睡眠の生理学的メカニズム、例えばレム睡眠とノンレム睡眠の違いやその役割についても「生理心理学」で理解しています。睡眠障害の理解も「臨床心理学」で学びます。不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの知識を持つことで、これらの問題を評価し、対処法を提案することが可能です。
ストレスと健康心理学の知識も、睡眠とストレスの相互関係を理解し、睡眠不足が精神的健康に与える影響を語れます。
つまり、認定心理士は、心理学の知識と技術を活用して、睡眠に関する学術的な見解を話せるので、この記事も価値があるというわけです。以上を踏まえて、睡眠について考えてみましょう。
睡眠の機能、効果
人間の意識状態は
- 意識がある状態:覚醒
- 意識がない状態:睡眠
に分けられます。しかし、両者は二分法的に分けられるものではなく、連続的な変化としてとらえられます。
覚醒からいきなり睡眠、睡眠からいきなり覚醒になるわけではありません。二度寝や寝ぼけることから、睡眠→覚醒と明確に切り替わるものではないことは、みなさんも実感として持っていらっしゃるはずです。
魚な眠ることがあるでしょうか?眠って止まっている魚は見かけません。実は、魚類→両生類→爬虫類→鳥類→哺乳類→霊長類(人間)と進化するにつれて、深い眠りと浅い眠りを繰り返すことがわかっています。
後述しますが、浅い眠りで夢を見るのは進化している動物の証です。
睡眠の効果は疲労の回復、脳の成長、身体組織の修復・成長、記憶の強化・修正などさまざまなものがあります。まだ科学的には解明されていないものもありますが、「寝る子は育つ(身体の成長)」「風邪をひいたら眠って治す(身体の修復)」などは睡眠の科学的効果がわかってくる以前から、人間の知恵として根付いていたものなのでしょう。
覚醒水準
睡眠は一定ではありません。浅い眠りと深い眠りを一晩の睡眠の中で繰り返します。
睡眠は段階的に、脳波、筋電図、眼球運動などが異なります。
- レム睡眠:浅い睡眠(逆説睡眠)
- ノンレム睡眠:(徐波睡眠)
に大別されます。ノンレム睡眠はさらに、1,2,3,4の4段階に分けられ、数字が大きくなるほど深い睡眠になります。
イメージとして
眠にり落ちる
ノンレム睡眠1
ノンレム睡眠2
ノンレム睡眠3
ノンレム睡眠4
ノンレム睡眠3
ノンレム睡眠2
ノンレム睡眠1
レム睡眠
ノンレム睡眠1
ノンレム睡眠2
ノンレム睡眠3
ノンレム睡眠4
ノンレム睡眠3
・・・
このように1睡眠で深い眠りと浅い眠りを繰り返していきます。眠るにはいるとノンレム睡眠1からどんどん深い眠りに入り、レム睡眠になるのは一周してからになります。
最初ほど深い眠りになり、睡眠が進むと、ノンレム睡眠3からノンレム睡眠4にならず、ノンレム睡眠2→ノンレム睡眠3→ノンレム睡眠2→ノンレム睡眠1 のように徐々に眠りの深さが浅くなっていき、最終的には覚醒(目覚める)に至ります。
ノンレム睡眠とレム睡眠
ノンレム睡眠は深い眠り、レム睡眠は浅い眠りと書きましたが、それぞれどのようなものか解説していきます。
ノンレム睡眠
ノンレム睡眠はRapid Eye Movement(急速眼球運動)=REMがNONの状態、つまり眼球運動がない状態なのでそう呼ばれます。
ノンレム睡眠時には脳も休んでいます。この時間に疲労回復や精神的な摩耗を回復させ、身体の機能を復活させていきます。
風邪をひいたとき、非常に疲れているときは、ノンレム睡眠状態で脳も休ませることで身体を回復させていきます。
入眠直後のノンレム睡眠では、成長ホルモンの分泌が特に多くなります。「寝る子は育つ」というのは科学的にも根拠があり、しっかり深い眠りにつくことで身体は成長していきます。
睡眠周期が進むごとに、ノンレム睡眠の深さは徐々に浅くなっていきます。覚醒前のノンレム睡眠はノンレム睡眠4にはならず、ノンレム睡眠2などになっているはずです。
ノンレム睡眠は脳も休んでいますので、夢を見ることもありません。本当に疲労困憊しているときにあまり夢を見ないのはノンレム睡眠で身体を休めているからなのかもしれません。
レム睡眠
レム睡眠時は目をつぶって寝ていますが、眼球は動いています。自律神経が活発な状態で、呼吸や血圧、心拍数などが激しく、夢を見る可能性があります。男性が「朝立ち」するのもレム睡眠の時です。
頭は覚醒時に近いのですが、身体は眠っています。この状態を「持続性筋緊張消失」と言い、筋肉の緊張は著しく低下しています。
俗にいう「金縛り」は、悪霊でも心霊現象でもなく、レム睡眠時に意識がはっきりしてしまった時に起きる可能性があります。
レム睡眠は脳を睡眠状態から覚醒させるだけでなく、うつ病などの原因とされる神経伝達物質の分泌にも影響しています。精神疾患になると不眠を伴うのも、そうしたものと関係があるのかもしれません。
レム睡眠は人間だけではなく他の哺乳類や爬虫類などでも見られますが、魚類や両生類にはありません。比較的高次の動物に備わっている機能と言えるでしょう。
つまり、飼っている犬や猫もレム睡眠があるので、夢を見ています。
睡眠は90分周期
睡眠にはサイクルがあります。
レム睡眠→ノンレム睡眠1~4→レム睡眠
このサイクルで約90分です。
通常の場合、90×4、ないし90×5 で6時間から7時間30分の睡眠をとり、最後レム睡眠から覚醒、起床となります。
レム睡眠は1回あたり20分程度あり、それを4回程度繰り返すので、かなりの時間夢を見ていることになります。毎日数回夢を見ているはずなのに、起床すると覚えていることが少ないのは、レム睡眠中に、脳のメラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)が記憶を消去しているという研究があります。
これは実際に遭った被害(まさに「悪夢」)を忘れさせる人間が持っている回復法、ストレス対処法でもあると言われています。
睡眠サイクルは90分1回目が最も深く、ノンレム睡眠4までいきます。しかし、徐々に眠りが浅くなり、起床間際の波はノンレム睡眠2くらいが最深部になります。
2、3時間の睡眠(仮眠)でも寝ないよりもマシなのは、睡眠の初期に深いノンレム睡眠4が来るので、ここでかなり身体と脳が休まり、疲労が回復するからだと言われています。
仮眠をとるべきなのは、短時間でも深い睡眠(ノンレム睡眠4)を経験するからなのです。
睡眠時間は年齢とともに減っていきます。新生児(赤ちゃん)は1日16時間睡眠なので、90分のサイクルを10回~11回繰り返します。
乳児~幼児はお昼過ぎにも睡眠のサイクルがあります。保育園などでお昼寝の時間があるのは、子どもの生理的睡眠サイクルを考慮した合理的なものなのです。
小学生になるくらいでお昼寝は不要になり、中学生までは大人の睡眠時間+1サイクル程度が必要です。高校生になってようやく90分×4、5回のサイクルが平均的な睡眠時間になります。
大人になって、90分×4ないし5回の睡眠サイクルで毎日眠っているのに、日中すごく眠いという人は、身体的に睡眠が十分ではないことであり、メンタル疾患や睡眠時無呼吸症候群の可能性があると言われています。
そうした方は、医療機関(呼吸器科や耳鼻科など)へ行き、適切な診察を受けてください。メンタル起因の場合と、睡眠時無呼吸症候群など身体的な疾患では対処法が異なるので、自己判断は禁物です。
人間の睡眠、動物の睡眠
人間も動物ですが、人間と他の動物について、睡眠の違いを表にしました。
「サーカディアン機構」とは「睡眠について1日の周期があること」(睡眠に限らずホルモン分泌などの周期も含みます)、「高振幅徐波」とはノンレム睡眠3やノンレム睡眠4の深い眠りを指します。「逆説睡眠」はレム睡眠です。「頭足類」はタコやイカなどです。
+は「する」、-は「しない」を表します。
霊長類 | 哺乳類 | 鳥類 | 爬虫類 | 両生類 | 魚類 | 頭足類 | 昆虫類 | |
長い不活性活動 | + | + | + | + | + | + | + | + |
サーカディアン機構 | + | + | + | + | + | + | + | + |
反応性低下 | + | + | + | + | + | + | + | + |
特有な睡眠姿勢 | + | + | + | + | + | + | + | + |
高振幅徐波 | + | + | + | - | - | - | - | - |
逆説睡眠 | + | + | + | 不明 | - | - | - | - |
実は睡眠の中でも、深いノンレム睡眠とレム睡眠は、人間や哺乳類、鳥くらいしかしない、生物の進化の過程で生まれた事象であることがわかります。
まとめ
睡眠について少し科学的に解説しました。ただし、まだ睡眠、特にノンレム睡眠が身体の疲労を回復させるメカニズムなど完全に解明されていないものもあります。
少なくとも深い眠りで、90分4サイクルか5サイクル1日で寝ることが、健康上のリスクを減らすうえでは重要です。身体だけでなくメンタルもリフレッシュできます。
ぜひ睡眠について科学的に考えながら、実行してみましょう。