人間は睡眠なしでは生きていけません。なぜ眠るのか、睡眠の理由やメカニズムについてはまだまだ科学的に解明されていないものも多く、確定的なことは少ないのですが、人間にとって睡眠は単なる疲労回復以上のものを持ちます。
今回は睡眠のメカニズムについて多角的に考えていきます。普段の睡眠を漫然と考えるのではなく、生きるための知恵としてイメージし、前向きにとらえていきましょう。
なぜ睡眠時に夢をみるのか?~睡眠と夢の関係は?
なぜ夢を見るのか、科学的にすべて解決しているわけではありませんが、このように考えられています。
- 日中経験したことの情報整理
- 忘れたい出来事を忘れさせる
- 本能の欲求開放
- レム睡眠独特の整理運動
これらをまとめると、夢は日常生活起きた出来事や脳内にある情報整理のため見ると言われています。
脳内にある過去の記憶や直近の記憶が、人間として生きていくためにプラスになるよう処理される過程で見るのが夢です。悪夢であっても、それは記憶の掛け算によって生み出されたもので、本当に悪い将来を予感しているものではありません。夢占いはほどほどにしましょう。
人間のネガティブな情動要素と関連する脳の扁桃体が、レム睡眠時に活発になるため、悪夢を見やすくなるという研究もあります。
レム睡眠時だけではなく、ノンレム睡眠時も夢を見ているのですが、脳が起きていて身体が眠っているレム睡眠時の方が活発な生理活動によって夢が鮮明になります。
悲しいことがあった場合、その悲しさを上手に処理するのも夢が持っている機能です。これによって救われるケースも多いのです。
夢は毎晩ノンレム睡眠の回数分見ていると言われています。つまり、3回~5回ほど夢を見ていますが、覚えているのは直近のもののみです。それも忘れてしまう日もあり、必ずその日の夢を記憶しているわけではありません。
睡眠のメカニズムの簡単解説~レム睡眠とノンレム睡眠
睡眠はどのようなメカニズムの下で行われるのでしょうか?
睡眠を科学的に理解することで、ある程度意識的に睡眠をとることができるかもしれません。また、睡眠不足や過眠についても理解でき、ご自身の健康を守れるかもしれません。ここでは睡眠について科学的なお話をします。
明るい部屋で眠りにくい理由
明るく騒々しい部屋では眠りにくいものです。安眠、熟眠するためには深く静かな環境が必要です。・・アイマスクや耳栓がないと眠れないという人もいるはずです。
一方で、あれだけ明るくてうるさい電車の中でも眠ってしまう人はいます。明るい部屋で眠りにくい理由を考えてみましょう。
起きているためには、感覚入力が必要であり、その水準を感覚が下回ると眠くなるのか、1930年代にそのように考えた人がいます。これを「刺激遮断說」と言います。
明るい部屋では視覚からの刺激があります。その刺激を遮断するためには、暗く静かな環境が必要になります。
感覚の入力の水準があるレベルよりも低下すると眠気が出て睡眠に陥ります。騒々しい部屋では眠りにくいことや、寝る前にスマホをいじっていると眠れないという現象もこれで説明できます。
脳の中に覚醒や睡眠をコントロールする中枢があり。 脳は自発的に覚醒したり眠ったりするのでは?という仮説が立てられました。
第二次世界大戦後、睡眠についてさらに研究が進みます。動物の脳をいろいろなレベルで切断したり、電気的な破壊や刺激をしたりする(過激な)実験が行われました。
1950年代、ある研究者グループは動物の脳幹の外側部を破壊して脳に向かう感覚神経路を遮断してみましたが、その動物は眠りませんでした。
そこで次に、感覚神経路の通っていない脳幹中心部(網様体)を破壊すると、動物は昏睡状態に陥ってしまいました。
このことから、睡眠について、感覚入力が脳を目覚めさせているのではなく、脳幹網様体から大脳皮質全体に投射する神経経路が意識水準を支えていると考えます。
かなり難しい話ですが、このシステムを「脳幹網様体賦活系」とネーミングされました。脳の視の中には大脳皮質同士を結ぶ中継核(特殊核)と、大脳皮質と皮質下を結ぶ中継核(非特殊核)があって、特に後者が覚醒水準の維持に影響しています。覚醒水準が維持されれば眠くなりません。
睡眠は脳の自発的な機能と言うよりも、脳内の科学的な器質によって起きる現象であると研究が進んでいます。
ノンレム睡眠のメカニズム
以前の記事で「レム睡眠」(浅い眠り)と「ノンレム睡眠」(深い眠り)についてその違いを説明しました。
ノンレム睡眠のきっかけになるのは、睡眠誘発物質や生体時計であると考えられています。脳の視床下部前部の神経細胞が活動し、脳幹線体賦活系の神経活動が抑制されます。
同時に視床周囲の網様核細胞の活動水準は高くなり、大脳皮質と視床を結ぶ神経経路の活動が抑制されていきます。
その結果、次第に意識水準が低下する。脳波が同期化し、徐波化(深い睡眠、ノンレム睡眠3やノンレム睡眠4)するのは、脳の視床の細胞活動が低下し、大脳皮質の細胞活動も同時に低下します。
これがノンレム睡眠のメカニズムだと言われています。
レム睡眠のメカニズム
ある研究者が、ネコが「たぬき寝入り」をしているのを見つけました。この場合の「たぬき寝入り」とは寝ている演技ではなく、ネコの筋肉は深い脱力状態にあったが、脳波上では覚醒脳波が見られたというものです。どちらかと言うと、頭は起きているが体が動かない「金縛り」に近い状態です。
これにより、人間以外でも脳が起きていて身体は寝ている、レム睡眠状態があることを突き止めました。
脳幹にはセロトニン作動性神経の起始核である縫線核とノルアドレナリン作動性神経の起始核である青斑核が存在します。
セロトニンとノルアドレナリンは神経伝達物質で、これが足りなくなるとうつ病になると言われています。
セロトニンとノルアドレナリンが互いに互いの活動を抑制しあってノンレム睡眠とレム睡眠の発現を調節していると考えられ、これをモノアミン仮説と呼びます。モノアミン仮説はうつ病の原因についての根拠にもなっています。
モノアミン仮説によると、覚醒状態(起きている状態)は青斑核前部のノルアドレナリン作動性神経が縫線核の活動を抑制し、抑制が解除されると縫線核の活動が高まりノンレム睡眠(深い睡眠)が起きます。
その後、縫線核後部からセロトニンが放出されて青斑核の活動を調整し、その後、脳を覚醒させ、レム睡眠を起こすという理論です。
- ノルアドレナリン優位:ノンレム睡眠(浅い眠り)
- セロトニン優位:レム睡眠(浅い眠り)
うつ病など精神疾患になると不眠や深い眠りがとれなくなるのは、この神経伝達物質のバランスがおかしくなることで説明できます。
さらに研究が進み、レム睡眠には以下の機構、機序があることがわかりました。
- 脳を覚醒させる機構であり、これは通常の覚醒機構と変わらない
- レム睡眠に特異的な神経活動を起こす機構
- レム睡眠中眼球運動を起こ機構
橋吻側部の外背側被蓋核や脚橋被蓋核には、レム睡眠中に持続的に活動が増大する神経細胞があり、PS-on 細胞と呼ばれています。
この近傍にはノルアドレナリンやセロトニン動性の神経細胞があり、覚醒中は活動していますが、レム睡眠中には活動を停止します。この神経細胞群をPS-off細胞と呼びます。
レム睡眠中に、急速な眼球運動を起こす細胞群はPGO細胞と呼ばれ、橋網様体、外侧膝状体、視覚野にあたる後頭部から特徴的な脳波が記録されます。
レム睡眠は進化の過程で動物に備わってきた機序のため、ノンレム睡眠よりも複雑な流れで発言します。
ノンレム睡眠中には扁桃核や海馬が活動するので、夢を見る原因になっているという研究もあります。
非常に複雑なメカニズムでレム睡眠は起きます。生命の神秘を感じるのは睡眠の中でもレム睡眠なのかもしれません。
眠りのメカニズム | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)
睡眠を誘発するもの
脳の部位として、睡眠や覚醒をコントロールするところがあります。しかし、それだけでは睡眠を語れません。
一方で、睡眠や覚醒を誘発する化学物質もあります。睡眠薬や睡眠導入剤が効果を発揮するのは、ある程度科学的に睡眠を誘発できると科学的に考えられているからです。
すなわち睡眠は、神経性調節と液性調節という2つの側面を持っています。
睡眠発物質研究の歴史は長く、1910年代より研究が進められていました。長時間眠らせないでおいた犬の血清を他の犬に注射したところ、その犬は眠ってしまったそうです。睡魔に襲われている状態で、その「睡魔の原因」を別の犬に移せたのです。
この物質をヒプノトキシンと名づけました。
その後いろいろな物質が発見されましたが、確実に睡眠を誘発させるといえる物質はわずかしか見つかっていません。
「ウリジン」と「酸化型グルタチオン」、そして「プロスタグランジンD2」と呼ばれる物質です。特に「プロスタグランジンD2」は花粉症などのアレルギー薬でその作用を促す成分が入っています。
花粉症の薬で眠くなるのは、この副作用でもあります。市販されている(処方薬ではない)「睡眠改善薬」はこれらの成分(の副作用)を健康に悪影響がない範囲で使っています。
まとめ
睡眠のメカニズムや夢について解説しました。睡眠はまだまだ未解明な部分もありますが、しっかり眠ることで脳や身体がリセットされます。
睡眠について知識として知っておくと、ご自身の健康についても関心が及びやすいはずです。
夢は当たり前に見るものなので、一喜一憂せず、人間の体が持つ正常な機能としてとらえてください。
快眠生活がみなさんの日常を豊かにします。